トッピクス
短編映画「そのこえ」のロケ地になりました(185号)
著者:佐藤恵美
(社会福祉法人萌 ひだまり所長)
短編映画「そのこえ」とは
奈良県生駒市在住の田中大志さんが、企画・監督・脚本・編集した、場面緘黙症(※)で、社会の中で声を出せない主人公の青年が、利用している就労継続支援事業所へ入職した職員(女性ダンサー)と出会い、「踊り」によって自分の「声」を発見するという短編映画です。
※場面緘黙症(ばめんかんもくしょう):家庭などでは話せても、不安のため学校や社会など、特定の場面や状況では話せなくなる症状
田中さんとの出会い
田中さんがロケ地となる福祉事業所を探す中で、2021年3月に、私がいる就労継続支援B型事業所「ひだまり」との出会いがありました。
田中さんは、2020年春に留学していたイスラエルから帰国したとのこと。
私が持つイスラエルのイメージは「内戦が続いていて危ない国」というものでしたが、そのように伝えると、
「いえいえ、危ない地域はほんの一部だけで、エルサレムという街は都会だし、静かできれいな街です。少し郊外へ行くときれいな湖があって…」と話されます。
その場所で生活していた方の生の声を聞いて初めてわかり、かたよったイメージで判断していたことに気づき、
「これって同じだ」と思いました。
たまに報道される『事件の加害者が、精神科への入院・通院歴があった』のような一文で、多くの方々は、「精神科にかかっている方は怖い? 危険だ!」というイメージを持ちがちで、私達は日々の活動を通じて、「そうじゃないねん! 病気や障害について正しく知ってほしい!」と活動をしています。
当事者の皆さんの体験談を聞いて「初めてわかった」という方も多いですよね。
映画に出ちゃう?
手段は違っても、伝えていくことの大切さに意気投合し、、映画の撮影に協力していくことに決まりました。
メンバーミーティングに参加して企画から説明してもらい、映画の準備と並行して毎月1~2日ボランティアで来てもらうことになりました。
一緒に作業や活動をする中でメンバーの言葉や様子が脚本づくりに活かされています。
「映画に出演したい人!!」と募集すると、数人のメンバーが手をあげ、
「オーディションがあるの?」
「衣装はどうするの?」
「主役の俳優さんや女優さんは、どんな人かなぁ?」などと盛り上がり、9月26日に撮影がありました。
私達には特にセリフもなく、「いつもどおり店舗前の掃除をしてください」
「いつもと同じように朝礼をしてください」という監督の指示に緊張しながらもやってみました。
▽「ひだまり」でのシーン
完成! 試写会を開催
2回ほどの追加撮影や再録音を経ていよいよ試写会です。
2022年5月1日、朝はあいにくの雨模様でしたが、午前と午後の2回上映で、約300人の方が集まってくれました。
映画の開始早々に、毎日見慣れているはずの店内やパン作りのシーンがあり、引きこまれます。
主役の俳優さんは撮影当日「場面緘黙症の利用者」になりきっていて一言も話さなかったので、上映後のトークショーで「うわ、しゃべった!こんな声やったのね!」とみんなで感動し、出演したメンバーも2人ずつ舞台上で映画を観ての感想、撮影時の気持ちなどを話しました。
おわりに
今までのボランティアは実習生や精神保健福祉に興味関心のある方がほとんどでした。
今回は、この映画撮影がなければ接点がないであろう、劇団員や映像関係の方々に精神疾患や事業所について知ってもらうことができました。
メンバーも「自分が大きなスクリーンの中にいる」という、なかなかできない経験をさせてもらい、お互いにとてもよい経験ができました。
この作品はこれから国内外の映画祭に出品されるそうで、すべて終わらないと広く皆様に観ていただくことができないのですが、いずれはDVD化や配信サービスなどで、見ていただける予定です。
(…カ〇ヌ映画祭に呼ばれたらどうする? 行かなあかんなぁ…)